重要事項説明書 取引条件|78

手付解除はいつまで?よくある勘違いと重説の書き方【簡単診断】

手付金をあきらめれば、引渡し前ならいつでもやめられる?

『手付金は戻らなくてよいので、購入をやめたい』という相談でも、手付放棄だけで解除できるとは限りません。決済前でも、契約の期限や相手方の行為によっては手付解除が認められません。売主が宅建業者かどうかでも、期限の扱いは違います。

引渡し前でも、手付解除できるとは限らない

民法557条の原則では、買主は交付した手付を放棄し、売主は受領した手付の倍額を現実に提供して解除できます。ただし、解除される側である相手方が履行に着手した後は、その原則による手付解除はできません。契約に別の定めがある場合は、その内容と有効性も確認します。

重要事項説明書では『契約の解除に関する事項』のうち、手付解除の条件を説明します。解除全体の種類と調べ方は前回の記事で説明しました。この記事では、期限、履行の着手、放棄・倍返しの金額を取り違えないための確認方法を扱います。

基本のルールと説明する欄:民法557条宅建業法35条1項8号・39条

手付解除で確認する条件の簡単診断

当てはまる答えを押すと、あなたの場合の結論に色が付きます。

手付解除の条件を確認する
確認1売主と買主の組合せは?
  • 確認2手付解除の日付制限はある?
    • 結論39条の買主保護を確認
    • 確認3相手方が行ったと聞いていることは?
      • 結論相手方の行為と時系列を照合
      • 結論登記の準備と履行提供を区別
      • 結論行為・日付・通知の資料を確認
  • 結論契約の期限と着手条件を照合
  • 結論売主・買主の属性を確認
  1. 確認1売主と買主の組合せは?
    結論契約の期限と着手条件を照合
    結論売主・買主の属性を確認
  2. 確認2手付解除の日付制限はある?
    結論39条の買主保護を確認
  3. 確認3相手方が行ったと聞いていることは?
    結論相手方の行為と時系列を照合
    結論登記の準備と履行提供を区別
    結論行為・日付・通知の資料を確認
  • 契約の期限と着手条件を照合

    契約書の『○月○日まで』『相手方が履行に着手するまで』という記載を確認します。非業者売主の取引や業者間取引は、民法と特約に沿って説明します。

  • 売主・買主の属性を確認

    契約当事者が宅建業者かを確認します。仲介会社が宅建業者であることと、売主・買主が宅建業者であることは違います。

  • 39条の買主保護を確認

    売主が宅建業者、買主が非宅建業者なら、買主に不利な期限短縮は認められません。日付条項の有効性を確認したうえで、相手方の行為も調べます。

  • 相手方の行為と時系列を照合

    誰が、いつ、何をしたかを資料で確かめます。中間金支払や登記申請という名称だけで、解除の可否までは判定しません。

  • 登記の準備と履行提供を区別

    司法書士への依頼や書類の準備だけで履行着手と決めず、決済の場での履行提供など、そのほかの行為も確認します。

  • 行為・日付・通知の資料を確認

    相手方へ具体的な行為と実施日を質問し、契約書、送金記録、登記・工事資料、通知の到達記録を確認します。

解除の可否を自動判定する図ではありません。期限の結論でも相手方の行為を確認し、履行着手の結論でも契約の期限・特約を確認します。

民法557条、宅建業法39条・78条、司法研修所・行政・不動産適正取引推進機構の資料に基づき当事務所作成。

手付解除の期限は、どの売買でも同じ?

『契約後1週間』『引渡しの前日まで』などの全国一律の期限はありません。売主・買主が宅建業者かどうかと、契約書の手付条項・特約が確認の対象です。

売主・買主の関係期限を調べるときの注意
売主が個人など、宅建業者でない民法557条を原則として、手付解除期日等の特約を確認します。宅建業者が仲介していても、それだけで39条の買主保護が適用されるわけではありません。
売主が宅建業者・買主が非宅建業者宅建業法39条2項・3項を確認します。相手方の履行着手まで認められる買主の手付解除を、日付だけで打ち切るなど、買主に不利な特約は無効です。
売主・買主とも宅建業者78条2項により39条は適用されません。民法と特約を確認します。業者間なら何でも有効という意味ではなく、条項の解釈や他の法的制限は別途検討します。

契約書の期日前なら、必ず解除できる?

期日と履行着手の関係は、条項の書き方によって違います。例えば、個人売主の契約で『11月20日まで、ただし相手方が履行に着手した後を除く』という内容を有効に合意した場合、11月20日前でも相手方の履行着手によって制限されます。

契約によっては、期日までは相手方が履行に着手していても解除できると解釈される場合があります。常に『早い方』とも『遅い方』とも決められません。条項を省略せずに読み、売主・買主の属性も確認します。特に業者売主・非業者買主では、買主保護に反する期限短縮をそのまま重説へ転記しないでください。

期限特約と買主保護:宅建業法39条・78条2項手付解除期日の特約・Q5埼玉県FAQ・手付金④

重説には、何を調べてどう書く?

この項目の中心資料は、今回の売買契約書案・特約・手付金の受領記録です。都市計画図や登記情報だけでは、手付解除の期限や金銭の扱いは分かりません。土地・土地建物・区分所有建物のいずれでも、契約条項と当事者の属性を確認します。

  • 当事者の属性と契約条項の確認

    売主・買主が宅建業者かを確認し、手付解除条項の全文と別紙特約を読みます。解除期日、履行着手による制限、通知方法、例外を確認します。

  • 手付と、そのほかの支払の区分

    領収書・送金記録から、手付の額、交付日、受領者を確認します。中間金や清算金は手付の額に合算せず、支払の目的と金額を記録します。

  • 行為と通知の時系列の確認

    すでに解除の相談があるなら、誰がいつ何をしたかを双方に確認します。口頭の説明しか得られていない行為については、送金記録・登記申請・工事記録等の裏付けを求めます。

  • 重説と契約書の最終照合

    手付の額、解除期限、相手方の履行着手、放棄・倍額提供、通知先・通知方法を一致させます。融資特約や違約金の欄とも照合し、解除の理由による違いを説明します。

売主・買主・共同仲介先への質問例

『手付は誰がいくら受領していますか。手付解除の期日と、相手方の履行着手による制限は、契約書のどの条項で定めていますか。中間金の支払、登記申請、工事など、すでに行ったことはありますか。実施日と資料、解除通知の相手・方法も確認したいです。』

個人売主と業者売主では、記載例も変わる?

次は、土地建物の売買、手付100万円という架空例です。個人売主の例は『令和8年11月20日と相手方の履行着手のいずれか早い時点を限度とする』旨と、書面通知を当事者が合意した前提です。完成した契約条項のひな形ではありません。

前提重説の説明・記載例(独自例)
個人売主・非業者買主『買主は交付済み手付100万円を放棄し、売主は受領済み手付の倍額である合計200万円を現実に提供して解除できる。ただし、相手方が履行に着手した後、又は令和8年11月20日を経過した後は、この条項による解除はできない。解除は相手方への書面通知による。』実際の通知方法・期限の定めと照合します。
宅建業者売主・非業者買主『買主は、売主が履行に着手するまでは、交付済み手付100万円を放棄して解除できる。売主は、買主が履行に着手するまでは、合計200万円を現実に提供して解除できる。』これは39条の基本を説明する例です。買主に不利な日付制限を追加せず、個別の合意と法令に沿って通知方法等を記載します。

重説には手付の金額だけでなく、解除期限、相手方の履行着手、通知方法まで記載します。また、契約成立前の重要事項の説明と、成立後に交付する37条書面の記載は区別してください。

契約前の説明と成立後の書面:宅建業法35条1項7号・8号、37条1項6号・7号

履行の着手は、自分と相手のどちらを見る?

民法557条で見るのは、解除する人自身ではなく、解除される相手方の行為です。自分が履行に着手したことだけで、自分の手付解除権が当然になくなるわけではありません。ほかの期限・特約も確認します。

解除したい人原則として確認する履行着手
買主売主が履行に着手したかを確認します。買主自身が中間金を払ったことだけを理由に、買主からの手付解除まで否定しません。
売主買主が履行に着手したかを確認します。売主自身が行為をしたことだけで、売主からの手付解除が当然にできなくなるわけではありません。

例えば、買主が中間金を支払っていても、売主はまだ履行に着手していない場合です。ほかの条件を満たせば買主からの手付解除が認められる余地があります。ただし、その場合の手付放棄と、中間金等の返還・精算は分けて確認します。支払った金銭がすべて手付金として没収される、という意味ではありません。

相手方の履行着手と自己の履行着手:民法557条司法研修所・本文18〜19頁(昭和40年11月24日判例を含む)

司法書士に登記を頼めば、もう履行に着手した?

依頼したという事実だけでは決められません。裁判例では、司法書士への登記委任や書類の取得・作成を、履行提供の準備とした例があります。一方、売主側が決済に必要な書類と関係者をそろえて決済場所で履行を提供した事案では、着手が認められています。

公表された裁判例行為と判断
東京地判・平成17年1月27日履行期前の司法書士への登記委任・委任状交付、固定資産評価証明書の取得、領収証の作成等について、準備行為であり履行の着手に当たらないとされました。
東京地判・平成25年9月4日売主側が登記・引渡しに必要な書類をそろえ、根抵当権者の銀行担当者や司法書士と決済場所へ赴いて履行を提供していたことから、その後の買主の手付解除が認められませんでした。

登記を依頼しただけなのか、決済に必要な書類をそろえて相手に履行を提供したのかで、確認する事実は違います。『司法書士が関わっている』『費用を使った』という説明だけで判断せず、実際の行為と実施日を資料で確認します。

登記の準備と履行提供の比較:登記委任等を準備行為とした例・RETIO79号27〜28頁決済場所での履行提供を認めた例・RETIO96号116頁

測量やリフォームを始めた場合は?

埼玉県のFAQは、契約で定めた境界確定作業やリフォーム工事の実施などを、履行の着手を考える参考事例に挙げています。同時に、個々の契約内容に照らして判断し、一様には判断できないと説明しています。見積り・発注だけなのか、作業が実施されたのか、今回の契約で約束した義務なのかを確認します。測量という名称だけで着手の有無を決めず、契約書の測量条項と作業記録を照合します。

契約内容と具体的行為の確認:埼玉県FAQ・手付金②

手付100万円の『倍返し』は、合計いくら?

交付済みの手付が100万円で、民法557条による手付解除ができると仮定します。買主は支払った手付を放棄し、売主は受領した手付の倍額を提供します。

場面手付100万円の扱い(架空例)
買主が手付解除買主は交付済みの100万円を放棄します。手付解除のために、さらに100万円を追加で支払うのではありません。
売主が手付解除売主が現実に提供するのは合計200万円です。受領済み100万円の返還分と追加100万円であり、返還100万円に200万円を足す300万円ではありません。
解除せず、予定どおり決済契約の定めに従い手付を代金へ充当します。代金3,000万円・手付100万円なら、ほかの代金支払がない例の残代金は2,900万円です。清算金等は別に計算します。

売主は『倍返しすると伝えるだけ』でよい?

民法557条は、倍額を現実に提供することを求めています。『後日払います』と通知するだけで足りると説明しないでください。通知、資金の準備、具体的な提供方法を確認します。買主が受取を拒んでいる、提供方法が決まらないまま期限が迫っているといったときは、通知だけで済ませず、弁護士等へ対応を相談してください。

手付放棄に加えて、違約金も必要?

適法な手付解除について、当然に債務不履行の違約金や損害賠償も追加されるわけではありません。民法557条2項は、通常の解除後の損害賠償に関する545条4項を適用しないとしています。別の契約や別の原因の費用請求がある場合は、その根拠を個別に確認します。

手付金・中間金・清算金の区別は、売買代金以外に授受する金銭の記事でも説明しています。

放棄・倍額提供と損害賠償:民法557条1項・2項司法研修所・手付の交付と解除

埼玉・東京で、説明や判断に迷ったときの相談先は?

手付解除の基本は全国共通で、埼玉県と東京23区で一律の期限が違うわけではありません。重説でどう説明するかという業法相談と、個別の手付解除が有効かという民事相談を分けます。

相談先確認する内容
埼玉県・建築安全課 宅建相談・指導担当048-830-5488。手付解除条項の説明や業法上の取扱いを相談します。県のFAQ『手付金②・④』も確認できます。
東京都・不動産業課 指導相談担当03-5320-5071。不動産取引相談の窓口です。売主業者の属性、契約書案、具体的な説明上の疑問を整理して相談します。
履行着手・解除成立・金銭請求に争いがある契約書、支払記録、行為の実施資料、解除通知と到達記録を整理し、弁護士等へ相談します。行政窓口の回答で個別の紛争が確定するものではありません。
業法上の説明についての質問例

『売主は宅建業者、買主は非宅建業者です。契約書に手付解除期日の記載がありますが、この内容は39条の買主保護に反しないでしょうか。重説には、相手方の履行着手との関係をこのように説明する予定です。業法上の説明で不足はありますか。』

相談窓口:埼玉県・不動産取引に関する相談窓口東京都・不動産取引相談の窓口一覧

『手付金だけで済む』と答える前に、何が必要?

執筆・監修者の小野田敦士

小野田 敦士

  • 司法書士
  • 行政書士
  • 宅地建物取引士

『もう登記を頼んだので解除できません』『引渡し前だから手付金だけで済みます』とは、すぐには答えられません。相手が何をしたのか、契約書はどう定めているのかを確認してから説明したいところです。

  • 期限だけでなく、相手方の行為も確認手付放棄だけで済むと案内しても、相手方の履行着手によって手付解除が認められなければ、契約上の義務は続きます。その後の不履行による違約金等を避けるためにも、行為の内容と日時を確認します。
  • 通知の宛先・到達・代理権を確認民法97条・540条を踏まえ、契約で定めた通知方法も確認します。仲介会社へ連絡しただけで相手方への通知が完了したとは限りません。相手方本人への通知か、受領代理権がある人への通知かを確認します。
  • 契約書の修正を重説にも反映手付の額や解除期日を変更したら、金銭欄と解除欄の両方を照合します。古い日付がある書面を説明・交付しないようにします。

解除の意思表示と到達:民法97条・540条

埼玉県全域・東京都23区の売買物件

手付と解除条件の確認から、重要事項説明書の作成まで

  • 契約書案・特約と、手付の金額・解除条件・期限を照合
  • 現地・役所・法務局等の物件調査から重要事項説明書ドラフトを作成

解除通知の代理、紛争交渉、違約金請求の判断を代行するサービスではありません。必要に応じて弁護士等へ確認いただきます。

手付解除の説明や記載で分からないところがあれば、そのままご相談ください。契約書案と照らして、一緒に確認します。

物件調査・重要事項説明書の作成を依頼する標準的な1物件88,000円(税込)/公的資料取得実費別
相手が同意しなければ、手付解除できない?

手付解除権があり、条件を満たして適切に行使する場合は、相手方の同意を得る合意解除とは異なります。ただし、解除の通知や売主の倍額提供などの条件を満たす必要があります。相手方への通知や提供をせず、連絡もなく履行をやめることとは違います。

手付をまだ払っていなければ、売買契約も未成立?

売買は原則として合意により成立するため、手付未払いだけで売買契約も未成立とは決められません。一方、民法557条の手付解除では手付の交付が問題になります。契約成立の条件、実際の交付、手付条項を分けて確認してください。契約前の申込金・預り金とも区別します。

住宅ローンが通らない場合も、手付を放棄する?

ローン特約の適用条件を満たすなら、手付解除とは異なる取扱いとなり、手付金が返還される場合があります。金融機関・融資額・申込みへの協力義務・承認期限・解除通知の要否を確認します。ローンが不承認という理由だけで、必ず返金されるとも決められません。

手付解除ができなくても、違約金を払えばやめられる?

違約金条項は、当然に『払えば自由にやめられる権利』を認めるものではありません。契約違反による解除の要件、履行請求、損害賠償等の問題や、合意解除の可否を確認します。手付解除の条件を満たさない場合に、仲介担当者だけで違約金を払えば終了と案内しないでください。

2026年11月1日に法令・公式資料を確認しました。日付・金額・記載例は説明用の架空例です。裁判例は公表資料の紹介であり、同じ名称の行為が常に同じ結論になるとは限りません。診断は確認事項の案内です。個別の解除可否、通知の実行、返金や違約金の紛争は弁護士等へご相談ください。