重要事項説明書 A 不動産の表示|11-1

借地上の建物売買|土地賃借権と最高裁判決

借地上の建物を売るとき、土地の権利は「賃借権」ですか?

土地所有者から土地を借りて建てた区分所有建物があります。建物所有者の相続後、不動産会社が専有部分の持分4分の3を取得しました。このような物件を重要事項説明書へ記載する場合、土地に関する権利は所有権ではなく賃借権になるのでしょうか。

建物所有を目的に他人の土地を借りているなら、借地権のうち土地賃借権です

はい。土地所有者との契約が建物所有を目的とする土地賃貸借なら、土地に関する権利は借地権(その内容は土地賃借権)です。建物の所有権と、敷地を利用する土地賃借権を分けて確認します。

借地上の専有部分を4人が相続し、不動産会社が4分の3の持分を取得した2026年最高裁判決の時系列
最高裁判決の認定事実を簡略化した図です。建物の専有部分は所有権でも、その下の土地は所有権ではなく土地賃借権でした。不動産会社が取得したのは専有部分の持分と、それに伴う賃借権の持分です。

この事件では、土地所有者がAに対し、建物所有を目的として土地の一部を30年間賃貸していました。Aはその土地上に区分所有建物を建築し、一つの専有部分を所有していました。したがって、Aの権利関係は「専有部分について所有権」「敷地について土地賃借権」です。

重要事項説明書では、建物が所有権だから土地も所有権だとは考えません。借地権の選択欄では、まず「借地権」を選び、その内容として「賃借権」を選びます。普通借地権・定期借地権等の契約類型、対象面積、期間、地代、更新、譲渡承諾は別に確認します。

売主が土地も建物も所有し、土地所有権を買主へ移転する通常売買は、所有権の記事で説明しています。

借地上の建物売買で土地の権利をどう書くかの診断フローチャート

当てはまる答えを押すと、あなたの場合の結論に色が付きます。

借地上の建物を売買する
確認1地代を払って土地を借りていることを、契約書で確認できますか?
  • 確認2売るのは建物の全部ですか、共有持分ですか?
    • 結論借地権(土地賃借権)・承諾取得済み
    • 結論借地権(土地賃借権)・承諾は未取得
    • 結論売買する持分と承諾の状況を記載
  • 結論推測で書かず、地主と売主に照会
  1. 確認1地代を払って土地を借りていることを、契約書で確認できますか?
    結論推測で書かず、地主と売主に照会
  2. 確認2売るのは建物の全部ですか、共有持分ですか?
    結論借地権(土地賃借権)・承諾取得済み
    結論借地権(土地賃借権)・承諾は未取得
    結論売買する持分と承諾の状況を記載
  • 借地権(土地賃借権)・承諾取得済み

    借地権(土地賃借権)を選びます。譲渡承諾は取得済みと書き、承諾日と承諾書の内容を別紙に書きます。

  • 借地権(土地賃借権)・承諾は未取得

    借地権(土地賃借権)を選びます。譲渡承諾は未取得と書いて取得予定の日を入れ、取得できなかった場合にどうするかは売買契約の特約に書きます。

  • 売買する持分と承諾の状況を記載

    借地権(土地賃借権)を選び、売買する持分、地主の回答、契約条件を書きます。建物の持分には借地借家法14条の買取請求が認められないので(最高裁令和8年8月28日判決)、買取請求ができるとは書きません。

  • 推測で書かず、地主と売主に照会

    土地所有者と売主に照会し、過去に地代を払った資料や相続の資料を追加で確認します。土地賃借権に当たるかは、弁護士などの専門家に確認します。

借地の対象面積、期間、地代、更新は、借地契約書と更新契約書で確認して重説に書きます。

借地上の建物を売買するときの土地の権利欄の判断です。民法612条、借地借家法14条・19条、最高裁令和8年8月28日判決に基づき当事務所作成。

2026年8月28日最高裁判決は、何を判断したのか

  • 1990年7月|土地所有者とAが土地賃貸借契約を締結

    建物所有を目的とし、期間を1989年10月から30年とする契約でした。Aは借地上の区分所有建物の一つの専有部分を所有しました。

  • 2018年8月|Aの子4人が各4分の1を相続

    相続したのは、同じ一つの専有部分の持分です。四つの部屋に分かれたのではありません。判決は、専有部分とこれに伴う賃借権の持分関係を前提にしています。

  • 2019年10月|土地賃貸借契約をさらに30年間更新

    本件は、借地期間が満了して更新されなかった事案ではありません。更新後に建物持分が第三者へ売却された事案です。

  • 2021年2月|不動産会社が3人分、合計4分の3を取得

    不動産会社は専有部分の持分4分の3を買い受けました。これに伴う土地賃借権の持分の譲渡について、土地所有者は承諾しませんでした。

  • 2021年11月|建物持分の買取りを土地所有者へ請求

    不動産会社は、借地借家法14条の建物買取請求権を、取得した専有部分の4分の3について行使したと主張しました。

  • 2026年8月28日|最高裁が持分の買取請求権を否定

    最高裁は、賃借地上の建物の持分について14条の建物買取請求権は成立せず、区分所有建物の専有部分の持分でも同じだと判断しました。

最高裁が否定したのは、土地賃借権や建物持分の存在そのものではありません。否定したのは、土地所有者の承諾を得られなかった第三者が、建物の共有持分だけを土地所有者へ強制的に買い取らせる借地借家法14条の権利です。

借地上の建物を売買するときの物件調査順

  • 土地と建物の所有者を別々に確認する

    土地・建物双方の最新登記情報を取得し、土地所有者、建物所有者、専有部分・共有持分を整理します。土地と建物の名義が違うことは調査の出発点です。

  • 敷地利用権の根拠を原契約から確認する

    土地賃貸借契約、地上権設定契約、使用貸借、転貸等を区別します。地代を支払う建物所有目的の土地賃貸借なら、借地借家法上の借地権であり、その内容は土地賃借権です。

  • 契約の当事者・対象範囲・期間を時系列で追う

    原契約、更新契約、覚書、相続資料、地代改定、建替承諾等を並べます。一筆全部か一部か、複数筆か、どの建物に対応するかを図面とも照合します。

  • 建物と土地賃借権を誰から誰へ移すか整理する

    建物全部か共有持分か、土地賃借権全部か持分かを分けます。相続による承継と、その後の第三者への売買も別の出来事として整理します。

  • 土地所有者の承諾と契約条件を確認する

    民法612条を前提に、譲渡承諾の要否、承諾済みか、交渉中か、承諾料・名義変更料、承諾期限を確認します。口頭回答は回答者・日付・内容を記録します。

  • 承諾に代わる許可の有無を資料で確認する

    借地借家法19条には、一定の場合に裁判所が賃貸人の承諾に代わる許可を与える制度があります。申立て予定と許可済みを混同せず、決定書等の実在を確認します。

  • 重説と売買契約の停止・解除条件をそろえる

    借地権(土地賃借権)、借地対象面積、期間、地代、更新、承諾状況を重説へ反映し、承諾未取得なら取得期限と取得できない場合の契約処理を売買契約書へ明確にします。

最高裁が建物持分の買取請求を認めなかった理由

最高裁が比較した場面土地所有者に生じる結果
建物全部を買い取る場合土地所有者は時価を支払って建物全部を取得し、建物の譲渡や取壊し等を選べるようになります。
建物持分だけを買い取る場合土地所有者は代金を負担しながら、他の共有者との共有関係へ自らの意思によらず入り、建物を自由に処分できません。
持分取得者の資本回収建物持分については共有物分割請求による回収手段があるため、建物全部の場合ほど土地所有者へ強制的に買い取らせる必要性が高くないとされました。

最高裁は以上から、賃借地上の建物の持分については、借地借家法14条の建物買取請求権は成立しないとしました。尾島明裁判官の補足意見は、土地所有者が残りの持分を持っているなど共有関係へ巻き込まれない場面でも、建物持分について一般的に同じ結論になると説明しています。

借地借家法14条

借地上の建物等を取得した第三者が、土地賃借権の譲渡について承諾や承諾に代わる許可を得られない場合に、土地所有者へ建物等の時価買取りを請求する制度です。本判決は建物持分には成立しないとしました。

借地借家法19条

借地権者が借地上の建物を第三者へ譲渡しようとする際、賃貸人の承諾が得られず、賃貸人に不利となるおそれがない場合に、裁判所へ承諾に代わる許可を求める制度です。14条の買取請求とは場面・効果が異なります。

共有物分割

共有関係を解消する手続です。本件で実際に請求されたのは土地所有者への建物買取りであり、共有物分割ではありません。最高裁が別の資本回収手段として理由中に挙げました。

確認できた前提独自の記載例
借地上の建物全部を売買・承諾済み売主が借地上の建物全部を所有。土地所有者が土地賃借権の譲渡を文書で承諾土地に関する権利の種類:借地権(土地賃借権)。譲渡承諾:取得済み(承諾日・承諾書を別紙記載)。
借地上の建物全部を売買・承諾取得予定契約時点で土地所有者の承諾は未取得。売買契約上、期限までの承諾取得を条件とする土地に関する権利の種類:借地権(土地賃借権)。譲渡承諾:未取得、○年○月○日までに取得予定。未取得時の処理は売買契約特約に記載。
本判決型の建物共有持分売買対象は専有部分の共有持分4分の3。これに伴う土地賃借権持分の譲渡を土地所有者が承諾していない土地に関する権利の種類:借地権(土地賃借権)。売買対象持分・承諾未取得・土地所有者の回答・契約条件を個別記載し、14条の買取請求が使えるとは記載しない。
契約書がなく有償性も不明土地と建物の所有者は異なるが、地代資料、契約名、対象範囲を確認できない土地賃借権と推測記載せず、土地所有者・売主への照会、過去の支払資料、相続資料等を追加確認。法的評価は専門家確認とする。
判決を重説へ使うときの注意

最高裁判決は、建物共有持分について14条の建物買取請求権が成立しないと示したものです。個別物件の賃借権譲渡が有効か、19条の許可が得られるか、契約を解除できるかを一律に決めた判決ではありません。

東京23区・埼玉県とも、登記・借地契約・土地所有者の回答を重ねます

土地賃借権の成立や譲渡承諾の原則は全国共通です。市区町村の都市計画窓口で借地権を判定するのではなく、土地・建物の登記、借地契約書、更新書、地代資料、土地所有者または管理者の回答から確認します。

東京都23区の借地非訟

借地の所在地が東京23区内なら、東京地方裁判所民事第22部が借地非訟事件を扱います。裁判所の案内は、土地賃借権譲渡について土地所有者の承諾を得られない場合に、承諾に代わる許可を求められると説明しています。

埼玉県の借地非訟

さいたま地方裁判所の窓口案内では、本庁第3民事部非訟係が民事非訟・商事非訟・借地非訟の申立てを扱う窓口として案内されています。個別の管轄は借地所在地から確認します。

申立ての管轄

借地非訟は原則として借地所在地を管轄する地方裁判所です。重説作成者が許可の見込みを判断せず、許可済みなら決定書、申立て中なら事件資料を確認します。

通常の登記調査

土地と建物の登記情報を同じ基準日で取得し、PDFを保存します。土地乙区に賃借権登記がなくても、借地契約や借地権者名義の建物登記を確認せずに借地権なしとは判断しません。

確認した公式資料:令和8年8月28日最高裁判決最高裁判所の裁判例検索民法(e-Gov)借地借家法(e-Gov)登記情報提供サービス等の案内(法務省)借地非訟とは(東京地方裁判所)借地非訟事件手続の流れ(東京地方裁判所)埼玉県の裁判所の窓口

「借地権にチェックした」だけでは、買主が土地を使えるか説明できません

執筆・監修者の小野田敦士

小野田 敦士

  • 司法書士
  • 行政書士
  • 宅地建物取引士

建物を買えば敷地の賃借権も問題なく付いてくる、地主が承諾しなくても最後は買い取らせられる、とは考えないでください。建物と土地利用権を別々に調べます。

危険な思い込み実務で確認すること
建物の登記だけ見ればよい土地登記、借地契約、対象範囲、地代、期間、更新、建物所有者との対応を確認します。
相続人が持つなら自由に売れる相続による承継と、相続人から第三者への売買は分けます。第三者への土地賃借権譲渡について承諾・許可の問題を確認します。
持分4分の3なら建物の大半を自由にできる専有部分全部ではなく共有持分です。残る共有者との関係、建物の管理・使用、共有物分割、土地賃借権持分の扱いを個別確認します。
地主が承諾しなくても14条で買い取らせられる2026年最高裁判決は建物持分について14条の買取請求権を否定しました。買取請求を安全網として購入を進めません。
申立て予定なら許可済みと同じ借地借家法19条の申立て・審理・許可は別段階です。決定書がない段階では、取得期限と不成立時の契約処理を明記します。

本判決を重説実務へ引き直すと、確認すべき中心は「土地の権利名」だけではありません。誰が建物の何分の何を取得し、それに伴う土地賃借権の何分の何が動き、土地所有者が何を承諾しているかまで一つの関係図にします。

通常の土地所有権を売る場合との違いは、「土地の権利が所有権の場合」の記事で比較できます。借地対象の筆・範囲を図面へ対応させる場合は、「測量図面と境界確認」の記事も参照してください。

借地契約・共有持分・譲渡承諾を整理したいときは

物件調査から重要事項説明書の作成まで対応します

  • 埼玉県全域・東京都23区の売買物件に対応
  • 取引資料の確認、現地・役所・法務局等の調査、重要事項説明書ドラフト作成

標準的な1物件88,000円(税込)。公的資料取得実費は別途です。借地権譲渡の許可申立て、紛争、契約効力に関する個別の法律判断は、業務範囲を確認して弁護士等との連携をご案内します。

土地・建物の登記、借地契約、対象範囲、共有持分、土地所有者の承諾状況を照合し、確認済み事項と未確認事項が分かる重要事項説明書ドラフトを作成します。

物件調査・重要事項説明書の作成を依頼するサービス内容とご依頼の流れをご確認いただけます。

土地賃借権と借地上建物の売買でよくある質問

借地上の建物を売る場合、土地の権利は何を選びますか?

建物所有を目的とする土地賃貸借契約なら、借地権を選び、その内容として土地賃借権を選びます。建物所有権と敷地利用権を分けて記載します。

地上権と土地賃借権は同じですか?

同じではありません。いずれも建物所有目的なら借地借家法上の借地権になり得ますが、地上権は民法上の物権、土地賃借権は賃貸借契約上の権利です。登記と設定契約で判定します。

土地に賃借権登記がなければ借地権はありませんか?

そうとは限りません。契約上の土地賃借権が存在することがあり、借地借家法10条は借地権者名義で登記された建物による対抗力も定めています。土地・建物の登記と契約を確認します。

最高裁判決では、どの段階で地主の承諾が問題になりましたか?

Aの子4人が専有部分を相続した後、そのうち3人から第三者が持分合計4分の3を買い受けました。この買受けに伴う土地賃借権持分の譲渡を土地所有者が承諾しなかったことが問題になりました。相続と、その後の第三者への売買を分けて読みます。

建物の共有持分だけでも、地主へ買い取らせられますか?

2026年8月28日最高裁判決は、賃借地上の建物持分について借地借家法14条の建物買取請求権は成立しないと判断しました。区分所有建物の一つの専有部分の持分でも同じです。

地主が譲渡を承諾しない場合はどうしますか?

借地借家法19条には裁判所の承諾に代わる許可制度がありますが、許可の可否は個別判断です。売買前に弁護士等へ確認し、承諾・許可の取得期限と取得できない場合の契約処理を定めます。

最高裁判決の物件はどこですか?

最高裁の公開判決は当事者名、所在地、建物名、部屋番号、用途、面積等を明らかにしていません。本記事は、最高裁が公開した匿名の認定事実だけを重説実務へ引き直しています。

この記事は2026年9月3日時点の最高裁判所第二小法廷令和8年8月28日判決、民法、借地借家法、裁判所・法務省の公開資料を確認して作成しています。判決の当事者名、建物名、所在地、用途、取得価格等は最高裁の公開判決には記載されていないため、本文では匿名の認定事実だけを用いています。個別取引の承諾・許可・契約効力は弁護士等へ確認してください。